まだ横浜に住む何年も前に、友人からメリーさんの噂というか都市伝説のようなものを聞いたことがありました。

 -80歳くらいの娼婦が白塗り姿で街角に立っている。
 -現役でお客さんも付いているらしい。

本気にしないで聞いていましたが、後日、書店で森日出夫さんの写真集を手にとってあの話は現実だったのかと知りました。

中村監督の新作公開に合わせた「ヨコハマメリー」の12年ぶりのリバイバル上映を見て来ました。
とても不思議な映画で、メリーさんを追うドキュメンタリーなのに、ずっとずっとメリーさんが出てきません。
高校生の噂話から始まり、メリーさんの行きつけの美容院や、仕事場にしていた飲み屋の常連さんの思い出話とか、メリーさんを軸にして戦後から現代(映画の公開は12年前ですが)までの横浜が浮き彫りになっていくようでした。
メリーさんが出てこないからその出自に関してはどれが本当かわかりませんが、登場する人々の話から一貫して伝わってくるメリーさんの人柄は
 プライドが高く、毅然とした、気品のある婦人、媚は売らず客は自分で選ぶ、
そんな人でした。

最後の最後についに現れるご本人は可愛い可愛い小さなおばあちゃんで、上映後の舞台挨拶で中村監督がこの可愛らしいおばあちゃんが壮絶に生きた横浜の歴史を残そうとそれが映画を完成させるモチベーションになったとのことでした。
現実の厳しさを色々突きつけられましたが最後はホッとする映画でした。

佐藤千恵/後藤武建築設計事務所